2006年11月03日

平山夢明「東京伝説」

工場の裏手に川が流れていた

土手に腰ほどの草が一面に茂っていて
煙草を吸ったり弁当を喰ったり
人生ひとやすみには絶好のプレイス 

その日は夕暮れ

川沿い いつもの場所には先客が居た ふたりづれ 日が翳って男か女か分らない
離れて腰を下ろすなり 常のごとく空想にふけっていると
押し殺したような声がした


見ると
先客が揉み合っている 一人は長い棒を振っている 
相手をやにわに川へ突き落とした 溺れたかどうか覗き込んでいる

悟られたら自分もただではすまない
忍び足で家へ逃げ帰った とんでもないものを見てしまった

次の朝、新聞を隅まで見てもその記事は無い 
次の日も またその次の日も

目の前でひとが一人殺された 殺されたように己には見えた
家族や友人は騒ぐだろう 行方不明と探すだろう 死体はどこかで見つかるだろう
毎日、新聞を睨んでいたが 何時まで経ってもあらわれない
だんだん馬鹿馬鹿しくなってやめた

夢野久作が書いていた
小説ではなく体験談として

知人からは逆のはなしを聞いた
「ナンパで一番カンタンなのは、何つっても新入生歓迎会
大学のコンパ、サークルの新入生なんて主催者も誰が誰だかわからないじゃん
だから、新宿渋谷池袋 駅前の雑踏で
「何とか大学何とか部の人あつまってー!」といわれたら
ハーイッ!って返事してついて行けばいいわけ
あとは全部あっちでやってくれるから」

「新歓コンパはだいたい部費持ち、女のコも山だしで油断してるのが多い
一石二鳥」
・・・でも、誰何されない?お前誰よ?とかさ

「されないされない みんな初顔だもん おまけに舞い上がってるし 
だいたいお前、知らない顔に「アンタ誰」って聞くか?」

座敷わらしみたいなもんだね


葉を隠すなら森、の例えじゃないが都会は人間の森であります

隣人づきあいの絶えた町で われわれは優しさを忘れない
できたら忘れないでいたい なるべく忘れないようにしたい
テレビの向こうのかわいそうな人たちに 小さな声で心から声援を送って
やれやれ明日もがんばろう 灯りを消すと隣室から妙な笑い声

すれ違う人に挨拶してもその挨拶はかえらない

平山夢明「東京伝説」の序文に書いている
「今こそ本当に怖い話が必要なんだ」
幽霊も超常現象も出てこない 都会にひろがる不穏な噂をあつめた文庫

地震も津波も「人災」と呼ばれるご時世に精神病者は罪を問われない
東サカキバラ真一郎や宮崎勤、宅間守はこの本を読んでどう思うのか

オレと同様 怖いんだろうか


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